二転三転に評価と反発 大戸川ダム、住民や研究者
京都新聞2016.2.9
集落が立ち退いたが、工事が「凍結」したままの大戸川ダム予定地(大津市上田上大鳥居町)
建設方針が二転三転し、本体工事が凍結中の大戸川ダム(大津市)。事業の検証を進める近畿地方整備局は8日、ダム建設が「最も有利」との結果を示したが、関係自治体の間では反応に温度差がみられた。
地元住民からは早期着工を強く望む声の一方、ダム不要を訴える研究者らは事業主体自らの検証結果に厳しい目を向けた。
検証会議には滋賀県の三日月大造知事が出席した以外に首長の姿はなかった。
大阪府の担当者は「総合評価が示されたのは一歩前進」と淡々と話し、京都府は「滋賀や大阪で治水効果があるのは理解するが、府内でどれぐらいあるか、近年の気象状況も踏まえて説明を」と注文を付けた。
大戸川上流の滋賀県甲賀市は「コスト面を考えるとダム案を進めるのがいい」とし、京都府宇治市も「本体工事の早期着手を」と強調した。地元の大津市は「大戸川流域の治水の安全度を最優先に考え、県と連携したい」と述べるにとどめた。
三日月知事は会議後、「河川整備計画をどうするかは今回の検証とは別のステージ(議論)」と慎重な構えをみせた。
地元住民は結果を評価する。
大戸川ダム対策協議会会長の元持吉治さん(65)は「長年の要望が実を結び、洪水に苦しんできた地域に寄り添ってくれた。早期着工されるよう国と県が連携するように求めたい」と話した。
ダム湖に沈む予定地から集団移転した住民でつくる大鳥居地域開発協議会会長の青木洋治さん(62)は「計画が二転三転しており、今回も本当に凍結解除されるのか疑問」としつつ、「しっかり建設を進めてほしい」と願った。
一方で、かつて整備局が設けた淀川水系流域委員会で委員長を務め、ダム不要を主張してきた京都大名誉教授の今本博健さん(78)は「流域委や知事意見を無視し、建設ありきの結論」と憤った。
05年に整備局が治水単独のダムは経済的に不利として凍結した経過に触れ「当時と条件は変わっていないはずなのにコスト面で有利に変わることが信じられない」と指摘した。
08年に4府県で事実上のダム中止の合意文書をまとめた嘉田由紀子前滋賀県知事は「ダムだけで下流の治水課題が全て解決できると効果を過大に見ている。建設ありきで予断だらけの検証結果」と批判。
「三日月知事も4府県合意に言及し、整備計画を変更する段階にはないことを主張している。ダムだけに頼らない流域治水を基本とする滋賀県の治水政策方針に変更はないものと思う」と話した。