大戸川ダム案「最も有利」 国交省が治水の費用比較
朝日新聞2016.2.9
国が建設を凍結した大津市の大戸川(だいどがわ)ダムをめぐり、国土交通省近畿地方整備局は8日、河川改修など他の治水対策案と比較して「ダム建設が最も有利」とする評価を滋賀県など流域自治体に提示した。
国の淀川水系河川整備計画は同ダムについて「本体工事は当面実施しない」としており、計画変更と工事再開にはダム建設凍結を求めた各自治体の同意が必要となる。
近畿地整が大阪市内であったダム事業検討会議で示した資料によると、ダム建設と、ダムを建設せず河川掘削や既存ダムのかさ上げなどを組み合わせた代替8案を比較検討。
洪水時の被害軽減はいずれの案も目標を達成できるが、代替8案の総事業費が約3800億~6100億円超なのに対し、ダム建設は約3500億円とコスト面に優れ、他の評価項目も勘案して総合的に最も有利とした。
大戸川ダムは2008年4月、近畿地整の諮問機関「淀川水系流域委員会」が「効果は限定的で建設は不適切」とする意見書をまとめ、嘉田由紀子・滋賀県知事や橋下徹・大阪府知事(いずれも当時)ら4府県の知事も同11月、計画凍結を求める共同見解を発表。
これを受け国交省は09年3月に建設凍結を決めた。
ダムの検討会議は09年9月に誕生した民主党政権のダム建設見直しの方針を受け、当時本体工事が未着工だった全国83ダムが検証の対象となった。昨年9月時点で47事業が継続、24事業が中止になり、大戸川ダムなど12事業が検証を続けていた。
近畿地整は現行計画に沿って淀川上流の木津川、桂川の河川改修を先行する方針で「直ちに計画を変更する状況にはない」としている。
滋賀県の三日月大造知事は会議終了後の取材に「国が予断を持たずに検証された結果と受け止めている。現時点で4府県の知事合意を変更する段階ではないと思うが、関係者と議論しなければならない」と述べた。
大阪府の松井一郎知事は記者団に「専門家がより有効とする案については、やはり真っ正面から受け止める必要があるのかな」と語る一方、「事業をいつの時点でどう進めるかについては、詳しく中身を見た上で判断させて頂きたい」と述べた。(佐藤常敬)
◇
〈大戸川ダム〉 淀川水系の大戸川の上流に国が計画する治水専用ダム。洪水時の総貯水容量は約2210万立方メートル。
09年3月、国交省は「ダム本体工事については中・上流部の河川改修の進捗(しんちょく)状況とその影響を検証しながら実施時期を検討する」と河川整備計画を変更し、本体工事を凍結した。
周辺工事を含む総事業費は約3500億円。本体工事1162億円のうち国が7割、残る3割を大阪、京都、滋賀3府県が負担することになっている。