八ッ場ダム本体着工 「最後までいたい」水没予定地に数世帯
東京新聞・群馬版2015.1.22
【算用数字に改め、記載】
長野原町の八ッ場(やんば)ダムの計画が浮上してから63年。ダム本体工事が21日、いよいよ始まった。かつて地元では激しい反対運動が起こった。
次第に建設容認が大勢を占めるようになったが、いまでもダムを受け入れていない人はいる。同日、工事現場近くで「八ッ場ダムNO!」の横断幕を掲げた一団の中にも地元住民の姿があった。
(伊藤弘喜)
「本体工事、反対!」
「美しい吾妻渓谷を守れ!」。建設に適した岩盤を露出させるために爆薬で発破する作業を22日に控え、作業員が準備する工事現場。
その近くで市民グループ「八ッ場あしたの会」などの十数人が声を張り上げた。町民の男性(61)も控えめに交じっていた。市民グループが去った後、男性は「反対といっても、もうどうにもならない」と無念そうにつぶやいた。
現場周辺は、ダムによって水没する地域から代替地に移転した住民たちの新築住宅が建ち並び、真新しい道路が縦横に走る。ダムを地元が受け入れる代わりに国などが進めてきた「生活再建事業」の一環だ。
水没予定地にはいまだ数世帯が暮らす。男性はその一人だ。国土交通省の職員が時々、移転を促しに自宅を訪れる。「生まれ育ったふるさと以上の代替地があるなら、いつでも移るよ」。いつもそう伝えている。
辺りの風景は激変したが、愛着は変わらない。「60歳を過ぎて、よそに移るのは大変だよ。愛着は切り替えがきかない。ふるさとには最後までいたいじゃない」。男性は取材に、問い掛けるように語った。
この日、八ッ場あしたの会と「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」は、八ッ場ダムが必要性に乏しく、地滑り災害を誘発しかねないなどとして、抗議書を国交省八ッ場ダム工事事務所に提出。
国が工事を発注した移転代替地で、建設資材として使われた鉄鋼スラグから基準値を超える有害物質が検出されたことについてもただしている。
市民連絡会の嶋津暉之(てるゆき)代表(71)は「問題を抱えたままの着工は非常に残念。これからも注視していく」と話した。
【参考】
地元住民について
(八ッ場あしたの会、ツィッターでのコメント)
「八ッ場ダム水没関係5地区連合対策委員会」を水没予定地住民のつくる会と紹介しているが、正確ではない。3つの一部水没予定地区、2つの全水没予定地区住民のつくる会だ。全水没予定地区住民の多くは転出。非水没住民の方が多い。代表も非水没地の人。前田大臣が八ッ場ダム本体工事の中止撤回を表明した際、地元住民の多くは万歳三唱したといわれる。テレビでも新聞でもその映像が流れた。だが「地元住民」の中に、水没予定地出身者は殆どいなかった。県知事、国会議員も「地元住民」の中にいた。故郷を沈める決定に皆が万歳三唱するわけがない。