鬼怒川決壊から半年…懸命に生活再建 常総市、被災者転出で人口減
東京新聞・茨城版 2016.3.10
(写真)半年がたっても井戸水汚染の不安から利用が絶えない給水車=常総市で
【算用数字に改め、記載】
昨年9月の関東・東北水害により、常総市で鬼怒川の堤防が決壊してから10日で半年がたつ。住宅5千棟以上が全半壊した市内では、市民が生活再建を懸命に進めるが、被災者の市外への転出による人口減や、地域のコミュニティーの中心となる公民館の再建など、新たな課題にも直面している。
(増井のぞみ)
「あそこでは、家を取り壊して、子どもの所に身を寄せている」。同市水海道橋本町区長の古矢邦夫さん(75)は、広がる更地の一角を指さした。壁が泥で汚れたままの平屋を見やり「ここは修理しないようだ」。
市役所にほど近い水海道橋本町は、かつて商業で栄えた。市内を流れる新八間堀(はちけんぼり)川の氾濫と鬼怒川の決壊で、洪水被害を二重に受けた。水害前、474世帯が町内会にいたが、大規模半壊した家屋が多く、2月末までに40世帯が近隣市などに転居した。
現在、市の人口は約6六万4千人で、昨年9月~今年
2月に約750人減った。転出が転入を上回る社会減は630人に上った。市は市内の旅館やホテルに開設した避難所を今月1日に閉鎖したが、つくば市などの公的住宅に9日現在、まだ100世帯269人が仮住まいする。
市は昨年12月、水害で損壊した集落公民館の修繕に対する補助率を2分の1から3分の2、補助限度額を100万円から300万円に引き上げた。古矢さんは、補助金と保険を使い、被災した水海道橋本町民会館の修繕を、来月中にも終えたい考えで、「住民が集まれる場をつくり、早く日常生活を取り戻したい」と願う。
約1000世帯が住む大生(おおの)地区の大生公民館(同市平町)は、木造平屋の天井まで浸水し、窓ガラスは流されたままだ。住民らが話し合い、移転やかさ上げも考えたが、地区の中心部にあり、お年寄りも利用しやすいことから、市が2017年度に現在地で建て替えることにした。近くに住む本橋美千代さん(79)は「地区住民が料理教室やフラダンスで、よく使っていた。早くいい公民館を建ててほしい」と切望する。
市役所本庁舎前には、水害が発生した昨年9月10日以来、ずっと給水車が止まっている。最近では、最も多いときで日に200リットルの需要がある。鬼怒川東側の井戸水が汚染されたためで、昨年12月の市の検査では、一般細菌や大腸菌が検出されたため、35検体のうち25が飲用に不適合とされた。
県生活衛生課は「水質が元に戻るには数カ月から数年かかる」と説明する。市は、水道を引くよう呼び掛けるとともに、今月いっぱいで給水車を撤去し、本庁舎の玄関脇にある蛇口を利用するよう促している。
中妻町の橋本美子(よしこ)さん(61)は1月半ばまで給水車を利用していたが、結局、140万円をかけて水道を引いた。橋本さんは訴える。「長い水道管を通すために500万円もかかる住民もいて、水道を引きたくても引けない住民もいる。命に関わる問題なので、市は実態を調べてほしい」